現在はブレインスポッティングのみを提供しておりますが、今後増えていく予定です。
スピーディーにトラウマ治療~ブレインスポッティングについて~
ブレインスポッティング(BSP)とは?
ブレインスポッティングとは、視野を活用して脳と身体に働きかけることでトラウマを癒す、スピーディーで効果的な心理療法です(早いと1〜3回で効果が現れます)。移動する差し棒の先端に注意を向けながら、ネガティブな感情や嫌な気分を引き起こしている脳が正常に対処できるよう働きかけていく、比較的新しいカウンセリング技法です。
どんな人にこの治療はおすすめか?
トラウマを克服したい人やトラウマに苦しめられている人にブレインスポッティングは適した治療であると言えます。過去を思い出すと涙が出てくる、過去の出来事に関することに出会うと平静でいられなくなる方などには、特におすすめです。
しかし一方で、何が自分のトラウマか分からない、トラウマとして思い当たるものはないが毎日感情に振り回されて苦しいという方もいらっしゃいます。実はブレインスポッティングを受けて改善した方も、当初は特定の過去のトラウマに覚えがなかったり、自分にトラウマ記憶があるとはゆめにも思っていなかったりした方もたくさんいます。 トラウマ記憶があるかどうか分からない方でも、以下の症状に一つでも当てはまる方はトラウマ克服治療が適用できるかもしれません。
トラウマ症状セルフチェックリスト
普段の生活の中でもトラウマという言葉は使われるようになりましたが、心理学的な意味でのトラウマは、フラッシュバックを始めとする次のような状態を引き起こすとされています。
- ささいなきっかけから当時のことを思い出し、気持ちがぶり返してくる(フラッシュバック)
- 別のことをしているときでも、思い出したことが頭から離れなくなる
- 思い出すことがないように、関連するものには近づかない
- そのことを思い出すと体が反応し、汗ばんだり、息苦しくなったり、むかむかしたり、どきどきしたりする
- 神経が過敏になっていて、驚いたりどきっとしやすくなったりしている
- イライラしやすかったり、怒りっぽくなったりしている
- 寝ているときにも思い出し、途中で目が覚めてしまうことがある
理論背景とやり方
トラウマ記憶に限らず、物事を思い出そうとするときには当時と同じ目の動きが再現されることが実証研究から分かっています※1。ブレインスポッティングはそのような体の仕組みを利用し、トラウマ記憶とネガティブ感情を想起しているときにクライアント(相談者)の身体感覚と同調し、その身体反応を少しずつ弱めていくことで克服させていきます。 同じく視点を利用したトラウマ克服法として、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)があります。
ブレインスポッティングは、創始者のデイヴィッド・グランド博士がEMDR中に発見した比較的新しい心理療法ですが、トラウマに関する脳の機序については未解明の部分も多く、ブレインスポッティングの作用機序もまだ全てが明らかとはなっていないのが現状です。
症例報告
30代男性ビジネスパーソン。「仕事にやりがいを感じられない」という主訴で日常生活に対処できなくなり、カウンセリング適用となりました。「これまでは自主的に動く人の少なかった職場だったが、自分が尽力したことで少しずつ変わってきた。そうなると動き出した人の方が自分よりも評価されるようになり、不満と憤りのようなものを強く感じる」とお話しされました。体について聞いていくと、頭部の熱くなる感覚、喉の詰まり感を訴えられたため、ブレインスポッティングを実施しました。
2回のセッションを実施した後は症状が消失し、「楽になった。自分にとって取るに足らないことだった。別の、もっと自分のやりたい業務に注力して対処したい」とお話しされ、3回目のセッションで終結しました。
他の治療法との比較
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
EMDRは眼球運動を誘導することでトラウマ克服治療を行う、視野を扱う心理療法の中では最もポピュラーな心理療法です。1980年代に発明され、イギリスやオーストラリアではエビデンスの確立した治療法として臨床ガイドラインによって推奨されています※2。
ブレインスポッティングは、創始者のデイヴィッド・グランド博士がEMDR治療を実施しているときに発見した、いわばEMDRの発展型の治療法です。EMDRに比べ、ブレインスポッティングは実施後数カ月経っても効果が持続していたことが報告されています。実施方法についても、ブレインスポッティングはフォーカスするところに視点を定めた後はそこから視点を動かすことはありませんが、EMDRは視点を左右方向に振り、それを目で追いながら記憶の処理をするという違いがあります。
脳の機能構造を踏まえると、EMDRは主に小脳の記憶(非陳述記憶)に働きかけているのに対して、ブレインスポッティングは大脳新皮質の記憶(作動記憶:ワーキングメモリ)に働きかけていると考えられますが、EMDRがワーキングメモリに作用していることを示す研究もあり、詳しいことは分かっていません。どちらもトラウマ克服治療の実証はいくつも報告されていますが、そのメカニズムについては完全には解明されていないと言えるでしょう。
その他のトラウマ克服治療
2012年にアメリカ東部コネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で男が銃を乱射し、26人の死傷者を出した事件がありました。関係者に対して援助や支援サービスが行われましたが、その事件からの回復に何が役立ったのか、匿名でのアンケート調査が行われました。
ブレインスポッティングは、いくつかのカウンセリングやセラピーの中で最も効果があったと回答された心理療法であったことが報告されています。
参考文献
※1 Michael B Bone et al, Eye movement Reinstatement and Neural Reactivation during Mental Imagery, Cerebral Cortex(2018), DOI: 10.1093/ cercor / bhy014
※2 飛鳥井望「エビデンスに基づいたPTSDの治療法」 『精神神經學雜誌』第110巻第3号, 2008年3月25日, 244-249頁